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大きなヤマメを見に行くぞ 

広報課です。
春ですねえ。桜もそろそろ。奥多摩はのどかな日が続いています。
え、ちょっと待って。また奥多摩?
そうなんです。奥多摩がわたしどもを呼んでいるのです。
先日は小河内ダムでしたが、今回はある魚について取材するために再び奥多摩にやってきました。その名も山女魚。(「ヤマメ」と読みます)ヤマメは、姿も美しく、渓流の女王なんて麗しい呼び名がついている人気の魚です。このヤマメを改良して作られた「奥多摩やまめ」を知る旅となりました。(いつから旅行記になったの?)
訪れたのは東京都農林水産振興財団の奥多摩さかな養殖センターの入川試験池です。案内人は当センターの雲見昂平さん。


卵や稚魚を育てる

奥多摩さかな養殖センター(入川飼育池)

奥多摩さかな養殖センターでは「奥多摩やまめ」をはじめ、ヤマメ、ニジマス、イワナの種苗(卵や稚魚)を生産し、河川漁協や養殖業者に配付しています。
配付された種苗は河川に放流されて釣りの対象となったり、養殖業者で育てられて飲食店や旅館などに卸されます。
大量の種苗を生産するため、センターには2ヵ所の飼育池があり、入川飼育池では主に稚魚の飼育と試験研究を行い、海沢飼育池では卵を採るための親となる成魚を飼育しています。

稚魚は室内で育てている


奥多摩やまめの誕生

ヤマメは通常生まれてから2年(約20~30cm)で産卵して死んでしまいます。その大きさでの調理方法は塩焼きがメインでした。もっと食材としての利用の範囲を広げられないかと、2年以降も生き残り大きく成長する「奥多摩やまめ」を当時の東京都水産試験場(現在の東京都島しょ農林水産総合センター)が平成10年に開発しました。

その手法は、現在、いろいろな農畜水産物で行われている遺伝子組み換えではなく、「三倍体」といわれる種なしぶどうや種なしスイカなどで実用化されている染色体操作といわれるものです。だから安心して食べることができるのです。

ヤマメと「奥多摩やまめ」の違い

「受精後まもない卵を28度のぬるま湯に15分間漬ける温度刺激で、三倍体にすることができます。ヤマメがもともと持っている染色体を2組から3組にするのです」

「奥多摩やまめ」は河川には放流されず、養殖・釣り堀用に限定して消費される

料理レパートリーも増えました

「だいたい3年で約1.5キロ・約40センチ、4年で約2キロ・約50センチに成長します。体の長さはふつうのヤマメの約2倍、重さでは10倍近くになります。また奥多摩やまめは大きく成長するだけでなく、脂ののりがよいのも特徴です」
お刺身やお寿司、ムニエル、カルパッチョ、燻製、フライなどなど。大きく成長することで調理のレパートリーも広がりました。

こんなに大きくなるものも。体長51センチ、2キロ弱

気になるお味は?

奥多摩やまめの身は薄いピンク色でぱっと見サーモン。味もサーモンに似ていますが、あっさりとして、奥多摩やまめならではの上品な脂とコクがあります。ふつうのヤマメに比べてタンパク質や脂肪が多く、秋の産卵期でも身が痩せないため、一年中脂がのったうまみが楽しめるのだとか。

河川水量の減少でひと苦労

センターが管理している2ヵ所の飼育地のうち、主に成魚を飼育する海沢飼育池にもお邪魔しました。
「奥多摩やまめは通常のヤマメと比べて警戒心が弱くおっとりしているので、釣り堀でも釣りやすいんです」と話すのは海沢飼育池の職員さん。生き物に関わる仕事がしたいとこの職に就いたのだそうです。
魚の養殖には水が重要。水量が多いほうが健康に育つのだとか。その水の確保がなかなか大変なんだそうです。
「川の水を使うのですが、今年は雪が少ないので飼育用水も少なくひと苦労です」

海沢飼育池で見せてもらった奥多摩やまめ
海沢飼育池で働く方々

ここでもコロナが打撃

次に養殖業を営む牧野養魚場を訪ねました。代表の岩根洋さんは3年前に叔父さんの家業を継ぎ、奥多摩やまめを育てています。
「旅館や釣り堀に卸したりしていましたが、コロナで打撃を受けました。今年は回復してほしいです」

岩根洋さん

コロナの影響は、奥多摩やまめの生産業者さんにも広がっています。「奥多摩やまめ」をもっとも多く生産している、氷川漁業協同組合長の鈴木清春さんは、長引くコロナの中で売り上げを伸ばす方法はないか模索したといいます。
「昨年の9月から、奥多摩の地元のからあげ専門店やレストランなどで、フィッシュアンドチップスとして売り出すことにしました。これが結構評判がよく助かっています」

鈴木清春さん
燻製や干物など加工品も作られ、お土産屋さんなどで販売されている

一時激減したヤマメ

ここでちょっとだけ、ヤマメの事情をご紹介します。
多摩川水系のヤマメは、林道開発などによる河川の荒廃や釣り人口の増加などの影響で一時期に「まぼろしの魚」と呼ばれるほど激減してしまいました。
ヤマメの存続に危機感を抱いた当時の東京都水産試験場奥多摩分場は、激減したヤマメの増殖を目的に、昭和29年から養殖技術の研究を始めました。そして昭和36年、池の中で養殖した多摩川水系のヤマメの親から卵をとり、その卵をまた親魚になるまで飼育するという「池中完全養殖」に日本で初めて成功したのです。こうして昭和50年代にはヤマメが安定して生産できるようになりました。
人間社会の経済成長により一度は減ったヤマメ。奥多摩さかな養殖センターでは多摩川水系の遺伝子を持った種苗の生産・配付を継続的に行い、河川における在来遺伝子の保全と地域産業の振興に貢献しています。

おいしい魚が食べることができるのは自然があるからこそ。自然の恵みの大切さをしみじみ思い返しました。奥多摩やまめは、奥多摩町の旅館や飲食店などで食べることができますが「生産量が多くないので、奥多摩近くに来られたときに飲食店やお土産屋さんなどでお楽しみいただければと思います」と雲見さん。

桜も見ごろな奥多摩

みなさんも奥多摩に行かれたときはぜひ「奥多摩やまめ」を味わってみてください。


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