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コロナ走り続けてきた、たまほく

広報広聴課です。
もうすぐ冬。コロナ第7波後の休息も束の間、再び勢いを増してきたようです。医療機関はこれまでの約3年間、ずっと走り続けてきました。都立病院もそのひとつ。
都立病院では主に中等症以上の患者さんを受け入れてきました。
また介護が必要な方や透析、妊婦、小児、精神疾患、障害など他の医療機関では対応困難な患者さんも積極的に受け入れています。

今回お伺いした東京の北部・東村山市にある多摩北部医療センター(以下「たまほく」)は、昭和61年に設立した東京都多摩老人医療センターが前身の都立病院。救急、小児医療に重点を置き、地域の人が安心できる医療を目指してきました。
今回「たまほく」がコロナとどのように向き合ってきたか、院内で働く方々にお話しを伺いながら取材しました。


苦しかった第5波

「病院として一番苦しかったのは昨年夏の第5波です。当院は感染症科がありませんから重症の患者さんには転院をお願いしていました。でも転院先も満員になりここで治療するしかありませんでした。もっと早く治療していれば重症の患者さんたちがあんなに追い込まれなくても済んだのではと思います」と院長の高西喜重郎さん。
【注】本来、高西さんの「高」は「はしごだか」

第6波では高齢者施設でのクラスターが増え、認知症など自分では動けない、介護の必要な患者さんが大勢入院したといいます。
介護の必要な人にはおむつ替えや食事介助など、通常の医療プラス介護のケアが必要。スタッフの負担も増えます。しかし第7波ではスタッフ、またその家族にも陽性になる人が増えました。

垣根を越えて応援を

「スタッフの1割にあたる約40名が出勤できなくなりました。全体に声をかけ欠勤の少ない手術室やICU、外来など、部署の垣根を越えて応援を出してもらいました」と話すのは看護部長の宮崎隆さん。
「長期にわたるコロナの中で、心身ともにストレスを抱えて疲れているだろうに、大きな波が何度来ても前向きに、不満も言わず仕事にあたってくれる。そんなスタッフの姿を見るたびに感謝していました」

気さくなお二人。右が高西院長、左が宮崎看護部長

高齢者施設でのクラスターが頻発したとき、コロナの初期対応に慣れていない施設職員が多かったといいます。そこで病院から看護師が訪問し、防護服の着方や着脱の仕方、利用者の部屋の配置などを指導しました。
「防護服を着るとき、脱ぐときに曝露(ウイルスにさらされること)を受けるリスクが高いので、どこを注意して脱ぐかなどを説明したりしました」
と話す看護師の鮎川さん。訪問後も電話やメールでサポートを続けました。

鮎川さん

いざ現場へ

さてインタビューからはいったん離れ、実際にコロナの患者さんがどのように運ばれてくるか、模擬でその様子を見せていただきました。

酸素ボンベを設置したコロナ患者専用のストレッチャーで患者さんを運ぶ様子。患者を覆っている透明のケースは陰圧の装置。ウイルスが漏れ出ないようになっています。看護師は防護服着用です。

「このテントはPCR検査をするときに使うもの。スイッチを入れると陰圧装置が稼働。この中で看護師は防護服を着て検体を採取します」と看護師長の白川さん。

スイッチが上にあるのではしごを出して昇ります。フィルターが消耗してしまうので使わないときはオフに。使用する30分前にはスイッチを入れ、終わってから30分後にスイッチを切り、中をすべて清掃します。

防護服は大変だ

次の写真は看護師さんの防護服着用、着脱の様子です。

手袋をしたまま手を何度も消毒。フェイスシールドを外してまた手を消毒。曝露を防ぐためにウイルスの付いていそうなものを脱いだ時は、その触った手を毎回消毒します。

脱いだ服をビニール袋に。ここでやっと手袋を外し自分の手を消毒。ビニール袋ごと専用ゴミ箱に廃棄し、ここでまた手を消毒。次に石鹸をつけて入念に手洗いし、やっと終了です。

「着るものつけるものが多いので時間がかかります。真夏はすごく暑い。このマスクもとても苦しいです」と話してくれた看護師のお二人。
看護師さんたちは防護服着用時のマスク「N95」とサージカルマスクを二重につけています。その上に更にフェイスシールド。
「熱がこもる感じが大変です。空気の出入り口がないみたい。多いときは30回くらいこの着替えをします。陽性の人だけの病棟なら部屋を出て、手袋を取り換えるだけで済みますが、陽性疑いのある患者さんに接したときは、一人一人の作業後、また部屋を出るごとに着替えています」

このマスク息苦しい・・

これがN95。わたしも着けてみました。

写真はマスクの裏面。鼻のところにウレタン?素材のようなものがあって鼻部分をしっかり覆ってしまう。赤いひも状のものがゴム。これがまたとてもタイトで息苦しい。それなのにこの上にさらにサージカルマスク・・。これは相当キツイ!

「チームC」のリーダー語る

ナースステーションの取材をしていると高西院長らが「この人にも聞いて!」と。押し出されるように登場したのは杉原さん。

杉原さんはリウマチ膠原病科の医師ですが、コロナ専門「チームC」のリーダーでもあります。一番大変だったことは?と聞くと
「どんな病気かわからなかったので一から勉強するところから始まりました。この病院には感染症や呼吸器内科の専門のドクターがいなかったので、いろんな人に教えてもらいながら診療体制を作っていったのが大変でした」
中でも第5波がきつかったと言います。
「100人以上患者さんが入院し、重症化する人、亡くなる方も大勢いました。転院先もなくそのときが精神的にも身体的にもつらかったです」
今一番したいことは何ですか?と聞くと「海外旅行にいきたい!」。

窓口・検査科のお仕事

コロナかどうかを判定するにはまず検査。検査科は診療の窓口とも言えます。「通常は細菌検査が仕事でした。コロナになってからはPCR検査と並行して行っています。陽性者が増えたときは普段PCR検査をしていない職員をトレーニングし、24時間体制で検査を行えるようにしました」と臨床検査技師の田制さん。多いときは一日80件の検査を行いました。

検査の作業をする田制さん

これがPCR検査装置。処理した検体を装置にかけます。

あと39秒で結果がわかるところ。

結果が出ました!Noneの文字が見える。つまり陰性。よかったです。

田制さんの同僚・検査科の荻野さんと野澤さん。「友人と食事に行きたい。みんなで話したりしたいな」切実な声です。

もう一つの窓口・救急

ここは救急の入口。発熱した人など陽性が疑われる人が簡単に外から入ってこないように、外からはドアが開かないようになっています。インターホン越しに名前を言ってもらい対応します。

模擬患者役を務めた事務局の細川さん。取材があるので「今日は人生で一番いいネクタイをしめてきました」とのこと。

鈴木看護師長と細川さん

支えているたくさんの職種


医師・看護師以外にも患者さんと直接関わる人たちがいます。

コロナになってからの薬剤科の悩みは「患者さんのそばに行って服薬指導ができなくなった」こと。吸入薬を正しく使用するための実技指導についても、タブレットに動画を入れて看護師さんに持っていってもらったり。
薬剤師の多田さんの今一番したいことは「ベッドサイドに行って服薬指導したい!」

薬剤科の奥のパソコンに囲まれた小部屋。詰めていたのは薬剤作業員の藤岡さん。院内の薬の動きを把握し、在庫・発注を管理しています。具体的には医師が端末に入力した処方の数を確認し、在庫と照らし合わせて業者に発注をかけるのです。
「昼と夕方一日二回、発注します。絶対に薬を切らさないように注意しています。とはいえたくさん買えばいいということではなく、使用期限もあるものなので、必要な分を必要なだけ買うことが重要です」。笑顔がステキでした。

お話しをしてくれた栄養科のお二人。右が山本さん、左が黒木さん

栄養指導をする管理栄養士さんもコロナでは苦労したとか。「今までは食事がとれない患者さんにはベッドサイドに行って何が食べられるかなど聞いていました。でもコロナでそばに行けず、ナースコールや患者さんのスマホを使ってやり取りしたり。コロナからくる味覚障害の方には栄養のあるゼリーなどで対応しました」と山本さん。

コロナで入院した患者さんが『わたし宇宙にいるみたいで怖い』と言ったのが印象的だった、と話してくれたのはリハビリテーション科の関口さん。
「非日常的な場所で私たちもみんな防護服を着ていて顔の表情もよくわからない。患者さんはそんな中にいるんだなと。なので、できるだけ心のこもった声掛けを意識していました」
コロナ禍で食事が食べられなくなったという高齢の人たちが増えたそう。
リハビリ科で作成したお薬手帳ならぬ「リハビリ手帳」と嚥下体操のDVDを持つ関口さん。「連絡いただければ無料で差し上げます」

同じくリハビリ科の言語聴覚士。
「私の専門は患者さんが食事を上手にとれるようにリハビリする仕事です。食べないと病気がよくならないので、コロナの患者さんでも入院1日目、2日目など早い段階でリハビリを行います。特に口の周りのリハビリをするので防護服などで対応しますが、それでもとても緊張します」

放射線技師もコロナの患者さんに対応するときはやはり防護服。熱さと緊張感があるため長時間はきつい作業です。他のスタッフと交代できないときは結構長い時間、防護服を着たままのときもあります。
「うれしいのは患者さんからありがとうと言われたときです。不安を抱えているでしょうから丁寧な接遇を心がけています。あとは笑顔。リフレッシュできることがなかなか見つからないので誰かに教えてほしいです」と技師の相澤さん。

放射線科のみなさん

コロナ病棟用のポータブルレントゲン。撮影したらすぐ画像が確認でき、患者さんがベッドに寝たままでも撮影できます。

最後に話してくれたのは、昨年事務職で就職した森さん。
「入ってすぐの仕事は、コロナの患者さんと他の患者さんが接触しないようにする「人払い」でした。搬送の様子はニュースでしか見たことがなかったので初めはとても驚きました。でも誰かがしないといけないし、他のスタッフもみな自分の仕事としてやっているのを見て抵抗はなかったです」
いま何がしたいですかと聞くと「わたしはみなさんのマスクをつけた顔しか知りません。みなさんも私のマスクなしの顔は知らないでしょう。コロナが完全に落ち着いたら、みんなでご飯に行けたらいいなと思っています」

保健所からのメッセージ

今回は特別に、コロナ対応で日頃連携をとっている多摩小平保健所からコメントをいただきました。
「患者急増期には受入れ可能な限り、優先順位順に患者さんを受け入れていただきました。また高齢者施設への往診、感染対策の指導、施設内での治療、講演会講師等、地域全体での感染症対策の向上に取り組んでくださる多摩北部医療センターの皆さまには感謝の思いで一杯です」

取材を経て、病院の方々の大変さを少しだけ見ることができました。本当はもっとたくさんの方々の声を聞きたいところですが、今回はこのあたりで。
次も都立病院のレポートを掲載する予定です。