見出し画像

チームで支えるがん治療

戦略広報課です。
日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、2019年のデータによると2人に1人。また2021年にがんで死亡した人は約38万人と報告されています(国立がん研究センター調べ)。たとえば、白血病は人口10万人あたり、病気にかかる人は11.3人。(全国がん登録罹患データ2019年より)
血液疾患は発症の頻度が低いものの、若い患者さんが一定数いる病気です。

がん征圧活動が表彰


2023年9月、東京都立病院機構がん・感染症センター都立駒込病院(以下駒込病院)が、がん征圧活動の功績に対し贈られる「日本対がん協会賞(団体の部)」を受賞しました。受賞の理由として、新型コロナウイルス感染が蔓延する中、感染症センターとして多くの感染者を受け入れる一方、感染管理を十分に行い、造血幹細胞移植を通常通り行うことが出来たこと、また小中学校へ医師らを派遣し、がん教育でがん知識の普及に貢献したことが評価されました。
駒込病院は1986年から造血幹細胞移植を開始し、2013年に全国で初めて造血幹細胞移植推進拠点病院に選ばれました。2024年2月まで約2,700人の患者さんに造血幹細胞移植を実施。その件数は2020年から2022年、全国でトップでした。

血液のがんに対し


造血幹細胞移植は血液疾患の治療方法の一つです。
血液疾患のうち血液悪性疾患には、急性白血病、慢性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などたくさんの種類があります。それぞれ決まった血液細胞を由来としています。
血液の細胞成分である赤血球、白血球、血小板は、骨の内部にある骨髄と呼ばれるスポンジのようなところで常に作られています。この骨髄の機能が悪くなると、赤血球が減って貧血となったり、白血球が減って感染症にかかり易くなったり、血小板が減って血が止まりにくくなったりします。
造血幹細胞とは、すべての血球を産生する多分化能と自己複製能という二つの能力を持ち、これらすべての血球の元となるものです。

造血幹細胞移植には、自家移植と同種移植の2通りがあります。
自家移植:大量の抗がん剤治療を行うため、前もって自分の造血幹細胞を採取、凍結しておき、実際の抗がん剤治療時にこの凍結していた幹細胞を移植(輸注)する方法です。
主にリンパ腫や骨髄腫の患者さんがこちらの治療を受けます。
 
同種移植ドナーさんからの造血幹細胞を抗がん剤や放射線治療の後に輸注し、病気におかされた骨髄を健康なもの(ドナーさんの造血)に置き換える治療です。
白血病などに対し抗がん剤治療などを行いますが、この治療で根治が難しい場合には同種移植という方法が選択肢になります。

同種移植の種類


骨髄移植:骨髄液をドナーさんから採取して移植(輸注)する方法
末梢血幹細胞移植:ドナーさんにG-CSFという薬剤を投与して、末梢血に流出してきた造血幹細胞を血液成分採取装置で採取し、この細胞を移植する方法
臍帯血移植:母親と胎児を結ぶ臍帯(へその緒)と胎盤の中に含まれる血液(臍帯血)には造血幹細胞が存在しています。この臍帯血由来の造血幹細胞を移植に用いる方法
 
血液型は異なっていても問題ありません。HLA(human leukocyte antigen)という白血球の型があっているドナーさんから造血幹細胞を頂くのが第一選択肢となります。
最近は医学が進歩し、様々な免疫抑制剤を使用することができるようになったため、ハプロ移植(HLAが半分しかあっていない移植)でも、HLAが一致している場合と同程度の成績が報告されています。

 患者さんと周囲をつなげるコーディネーター


駒込病院には3人の造血細胞移植コーディネーター(以下HCTC:一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会認定)がいます。
HCTCは、患者さんとその家族、ドナーさんとその家族などと医療チームやサポートチーム間を、中立的な立場でリスク管理をしながら繋いでいきます。
駒込病院では、骨髄バンクドナーによる非血縁者間移植、血縁者間移植(半合致移植も含む)、臍帯血移植を行っており、そのすべての調整にHCTCが関わっています。
「患者さんと家族、ドナーさんとの初回の面談時には、それぞれのお気持ちを十分に傾聴し、安心して相談いただけるように心がけています。特に血縁者間移植では、患者さんと家族、ドナーさんとの関係に配慮しながら、ドナーの安全を最優先に最適な状態で幹細胞採取が行われるよう調整に努めています」とのことです。

造血細胞移植コーディネーターと面談する様子(写真はイメージ)

様々な職種で支える移植


造血幹細胞移植治療は、通常の抗がん剤治療と比較すると、非常に大きな副作用や合併症が生じます。そのため長期間に渡る療養生活が予測されます。移植適応については、医学的、社会的な見地から患者さんと家族とともに慎重に相談を行います。
場合によっては、精神腫瘍科、歯科口腔外科など外来受診時から介入する事が必要で、チーム医療のネットワークと協力が大きな支えとなっています。

患者さん一人一人に対して造血幹細胞移植の適応があるかどうか、週に一度、多職種のスタッフが対面で検討します。

移植後は白血球が減少していて非常に感染しやすいため、患者さんと家族は直接対面できない状況が数か月続き、不安も大きくなりがちです。
看護師は家族が来院される度に、その時の患者さんの状況を伝えるなど、患者さんと家族との架け橋としての役割も果たしています。
患者さんの身体的、精神的な症状の観察や適切なケアを行いながら、医師、看護師だけでなく、他科のスタッフとも情報共有しながら安心して闘病生活が送れるよう日々、頑張っています。

感染を防ぐための無菌病棟室

次に、造血幹細胞移植を行う際の非常に重要な過程を担っている「輸血・細胞治療科」をご紹介します。
ここでは、末梢血幹細胞採取、ドナーリンパ球採取、骨髄の処理(血液型が異なる場合など)、臍帯血の受け取り・管理などを行っています。輸血・細胞治療科スタッフはドナーさんと協力しながら、安全な幹細胞採取に努めています。

末梢血管細胞採取をしているところ(イメージ画像)

造血細胞移植チームには、血液内科医師、看護師をはじめ、輸血科、放射線科、歯科口腔外科、精神腫瘍科など多くの科のスタッフ、またHCTCを含め、医療ソーシャルワーカーや事務部門などのスタッフが参加しています。安全で安心できる移植治療は、このような多職種のスタッフ全員の努力で支えられているのです。

造血細胞移植チーム 

がん予防には早めのがん教育


駒込病院では「がん教育」の普及にも力を入れています。
がん検診の受診率は50%を超えていないと報告されています。
小さい頃からがんに対する正しい知識を身につけ、予防に努めてほしいという願いから、医師が地域の小中学校に講師として訪問し、授業を行っています。
「子ども自身だけでなく家族ががんになることもありますから、がんとは何か、どうしてがんになるのか、予防できるのか、早くみつけるにはどうしたらいいか、などを話します。子どもたちは私たちが予想するより真剣に話を聞いてくれ、『初めてこういう話を聞いた』『がんが怖くなくなった』『将来、検診に行こうと思う』という感想を言ってくれます」と、がん教育を担当している脊山(せやま)泰治医師。
実際に家族に患者さんがいる場合もあるので、学校と相談し配慮しながら授業を進めているそうです。

脊山医師

造血幹細胞移植はこれまで根治が難しいとされてきた、血液がんへの希望でもあります。また、がん教育も大事なんですね。これらに取り組む医療機関をみんなで応援していきましょう~。

参考資料
都立駒込病院 造血幹細胞移植推進拠点病院としての取組
診療実績 | 駒込病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
同種造血細胞移植の説明 | 駒込病院 | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)
日本骨髄バンク
ハンドブック「白血病と言われたら」 - 特定非営利活動法人 全国骨髄バンク推進連絡協議会 (marrow.or.jp)
血液細胞の成り立ち | GVHDナビ | がんと希少な病気の情報サイト | ノバルティスファーマ株式会社 (novartis.co.jp)