ヒナちゃん、元気に育ってね
広報広聴課です。
「下水道局の施設の上で絶滅危惧種の鳥の巣があるらしい」
「卵が孵ったりもしているようだ」
という情報を得まして、さっそく行ってみることにしました。
羽田空港そばにある森ケ崎水再生センター。この屋上にコアジサシという名前の鳥の営巣地があるのです。
コアジサシは漢字で書くと「小鯵刺」。海岸や川などの水辺に生息し、狙いをつけて水にダイビングして魚をとらえる様子からこの名前がつけられたと言われています。英語名はリトルターン。
このコアジサシを巡って官民連携のドラマがありました。はじまり、はじまり~。
絶滅危惧種に
コアジサシは世界中で見ることができる鳥です。日本にはオーストラリアやニュージーランド周辺で越冬した集団が飛来してきます。
4月に日本に着いたコアジサシは5~8月の繁殖期に、海岸の砂浜や河川の河原・中洲で集団を作り繁殖します。通常ですと2、3個の卵を産み3週間くらいで孵化。ヒナは20日間くらいで飛ぶようになり9月にはみんなで南へ渡っていきます。
しかし、そのような自然の営巣地は都市開発などで年々減り、環境省の日本版レッドリストでは「絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)」に指定されています。
水再生センターに巣が
さて、時は2001年6月、コアジサシの保全を目的に立ち上げられたNPO法人リトルターン・プロジェクトのメンバーが、水再生センターの屋上でコアジサシが巣を作っている様子を発見しました。
「調査のためセンターに立ち入りの許可をとりたい」とリトルターン・プロジェクトが下水道局にかけあいます。
そして6月下旬に立ち入りが許可。
そのとき約200羽が巣を作っていましたが、巣立ったヒナはわずかに5羽だったそうです。コンクリートの屋上は過酷な環境です。
夏場は地面の表面温度が上がり50度近くになることも。また海からの強風が吹き、卵が飛ばされてしまいます。さらにカラスなど外敵によってヒナや卵が獲られてしまうことも。。
屋上大改造
このままでは繁殖が難しい。なんとかしなくては、とリトルターン・プロジェクト、下水道局、地元・大田区が協力し屋上の環境整備が始まったのです。
そして2002年の3月末にはレンガで囲われた何十もの区画が屋上に作られ、下水道局から無償提供された下水汚泥の焼却灰を原料としたスラッジライト(園芸用土などに使用されるもの)が敷かれました。
スラッジライトはレンガ色。そのままでは卵が目立ってしまうので、カモフラージュ用の白塗装をし、その上に貝殻をまきました。貝殻には温度を下げる効果もあり、卵が熱で茹ってしまうことを防ぎます。
また外敵対策としてヒナが身を隠すためのシェルターを設置したり「デコイ」と呼ばれるコアジサシの模型を置くなどもされました。
「外敵として一番手ごわいのがカラスです。頭がいいので対策をしてもすぐ慣れてしまう」と話すのは、この日案内をしてくれたリトルターン・プロジェクト代表の北村亘さん。
いろいろな工夫をして
コアジサシのための池。水再生センターの下水処理水を再利用しています。卵の温度調整のために、親鳥が水で卵や雛を冷やします。
協力なしでは立ち行かず
「こういう場所(水再生センターのような)が何か所もあることが大切です。ここがダメなら別のところ、というようにコアジサシが点々とできるのが理想です」と北村さんは話します。
もう一つ、コアジサシの保全活動に欠かせないのがボランティアの存在です。コアジサシは裸の地面が好きですが屋上はすぐに雑草が生えてしまいます。特に夏場は雑草がたくさん。雑草取りは地味な作業ですがボランティアの方々の協力は欠かせません。
ほかにもボランティアで貝殻撒きや捕食者対策(カラス除け修復、シェルター設置)、排水溝等の清掃などが行われています。
今年は酷暑。この夏を乗り切り、無事に子育てを終えたコアジサシが南の国に渡っていけますように。
画像提供(クレジット入りの画像):NPO法人リトルターン・プロジェクト