見出し画像

これな~んだ?ヒント:ないととっても困るもの

広報広聴課です。
「人間の生活にないととっても困るものな~んだ?」
いろいろあるとは思いますが、その一つは「下水道」。もっとすごい答えを想像したかもしれませんが、じわじわ考えてみると確かに下水道はないと非常に困ります。
特に現代社会で、下水道がなかったら大変なことに・・。あまり知ることのなかった下水道の歴史を少し振り返ってみることにします。


下水始まり始まり

世界で最古の下水道は紀元前5千年ごろのメソポタミア文明の都市と言われています。紀元前2千年ごろのインダス文明時代・モヘンジョ・ダロの遺跡には、精巧で発達した下水きょ(排水溝)があったようです。

1モヘンジョ・ダロの下水を流していた溝
2下水をしみこませていた「ます」

モヘンジョ・ダロの家々から流された下水をこの「ます」に受け入れ、地中にしみこませていたとか。
家庭の浴場やトイレはレンガ作りの「下水だめ」を通じて、街路にある下水きょにつながっていました。中でも特筆すべきは、下水きょの途中で効果的な沈殿が期待できる「沈殿池」が設けられていたこと。これが「人類初の下水処理設備」と言われる所以です。

疫病を防ごうと

中世に入ったヨーロッパでは人口が増え、汚物が街に廃棄されたことで都市の衛生状態が悪化しました。当時下水は道路や溝に流していたためコレラ、ペストなどを引き起こしました。
このような事態を改善するためにパリでは1370年に下水道が建設。ロンドンでは16世紀から下水道の改良が始まりました。しかしこれらの下水道には処理場がなかったため、雨水や汚水はそのまま河川に流していました。そのため河川の水質は汚れ、伝染病を防ぐことはできなかったのです。
人間の生活から出る廃物が水を利用して運ばれる初の系統的下水道は、1842年に着工したドイツ・ハンブルグの下水道ではないか、と言われています。
そして1914年、微生物を用いた下水の近代的処理方法(活性汚泥法)がイギリスで開発され、汚れた水をきれいにしてから河川などに流すことができるようになりました。

日本の事情

さて日本の下水道事情はといいますと、古墳時代(紀元前600年頃)、屋根からの雨水を受ける溝が作られていた形跡があります。藤原京時代(694年頃)になると道路の両側に溝が作られ、この溝が下水道の役割を果たしていたとか。
奈良時代(710年頃)には平城京に下水きょができ、平安時代(794年頃)に和歌山の高野山に日本式の水洗トイレができました。
そして安土桃山時代の1583年、豊臣秀吉の大坂城築城に伴った街づくりで下水を排するための下水溝・太閤下水が建設されたのです。

3太閤下水

当時は写真のような天井のふたはなく、溝のまま使われていました。明治時代、道路がよこぎるため、溝の上に石のふたがとりつけられて現在のような形になりました。
明治時代、文明開化と共に都市部の人口が増加。汚水の排出も増えていき、大雨が降ると汚水がたまるようになっていきました。明治12年、日本でもコレラが大流行し、たくさんの死者が出たのです。この事態をなんとかせねばと5年後の17年、東京・神田に汚水排除を含む近代下水道(ヨーロッパ式下水道)が作られましたが、処理施設がまだない状況。

4神田下水

初の処理場・三河島に

そして大正11年、ついに日本初の下水処理場・三河島汚水処分場(現・三河島水再生センター)が運転をスタートしたのです。
この下水処理場内につくられた喞筒(ぽんぷ)場施設は阻水扉室、沈砂池などの構造物が旧態を保持しつつまとめて残っています。近代下水処理場喞筒場施設の構成を知る上でも重要な文化財。その歴史的価値が認められ、平成19年に下水道分野の遺構では初めて国の重要文化財(建造物)に指定されました。今回はその喞筒場施設を中心に見せていただきました。

現在の三河島水再生センター航空写真(中央)

旧三河島汚水処分場の施設のうち水処理施設は最新技術のものへ更新されていきましたが、喞筒場施設は平成11年の稼働停止まで旧態のまま使用されました。なんと78年間現役!

現在、見学もできる喞筒場施設。(要予約)
喞筒室には下水を地下から吸い上げるポンプが10台設置されています
建設当時の喞筒室

手前が沈砂池。東西にひとつずつある池。下水を池の中でゆっくりと流し、土砂類を沈殿させて除去しました。

地下にある喞筒井(ぽんぷせい)
接続暗渠(あんきょ)

二系統に分かれ流れ込んだ下水はここで合流し、各喞筒井に流れていきます。ここを下水が流れていたんですね。

現存する阻水扉

展示されている巨大な当時の「馬蹄形レンガ敷きの下水管」。幅288センチ、高さ183センチ。この管も平成11年3月まで使用されていました。

入口にある門衛所。レトロでおしゃれ

現在は災害時の防災用水取水所などでもあります。

春は桜が見事
ライトアップされた喞筒室がきれいなキャンドルナイト

旧三河島汚水処分場喞筒場施設は下水道の歴史を知る以外にもこんな楽しみ方が。春には桜、つつじ、また秋にはキャンドルナイトなど、赤レンガの建物とのコラボが美しいのであります。ちょっとしたお出かけの候補の一つにいかがでしょうか。予約などの詳細はホームページで。

写真提供:1.2松井三郎(京都大学教授)、3. 4公益社団法人 日本下水道協会