映画のタレンツを探そうぞ
2023年11月20日から25日までの6日間、タレンツ・トーキョーが開催されました。タレンツ・トーキョーはアジアの映画製作者やプロデューサー向けに、世界中の映画業界の専門家から指導を受けることができ、また自分のプロジェクトを発表できるという映画人の未来をひらく企画です。
ベルリン国際映画祭の一環として開催されている「ベルリナーレ・タレンツ」のアジア版として2010年に東京で始まりました。
「次世代の巨匠」になる可能性を秘めた、アジアの「才能(タレンツ)」を育成することを目的としています。修了生の中からは、ベルリン、カンヌ、ベネチアなど国際映画祭での受賞者も出ています。
今回は日本、東南アジアから選ばれた17名が参加しました。
プログラムはすべて英語で行われ、映画分野のプロフェッショナルからの講義を受け、映画関係者に向けてのプレゼンテーションを行い、最優秀企画には「タレンツ・トーキョー・アワード」が贈られました。
はじまりは少しキンチョー気味
開催初日。一人一人コメントしたあと自己紹介として自身の3分映像が流れます。ちょっとみなさん緊張してる感じ?
みなさん、他の参加者の映像を真剣に見ています。
グループに分かれ、抱えている課題や自分に不足しているところなどを話し合っています。
日本からの二人に聞く
参加者のうち日本人は二人だけ。村山和也さんと中西舞さんです。
村山さんは友人の監督が応募することを聞き、自分も応募してみたとか。「普段はテレビCMの監督をしているので、映画のコネクションがありません。チャンスをつかみたくてチャレンジしてみました」
このイベントに参加した意気込みは?
「世界に通用する強い映画を作りたいと思っています。そのためにいろいろな人の意見をもらったり、とてもいい機会だと思います」
映画で何を表現したい?
「これからプレゼンしようと思っている作品は、日本人男性とカンボジア女性のラブストーリーです。前から興味のあったカンボジアの地雷問題を背景にしたいと思っています」
課題は?
「海外で一緒に活動できるプロデューサーを見つけることです」
参加した感想は?
「国ごとの課題があるんだなと思いました。例えば中国ではお化けの映画はNGとか。日本とは違うなと思います。また全員がアジア人なのが面白いです。親しみがあります」
中西さんはタレンツ・トーキョーに以前から参加したかったそう。
映画ビジネス業界で働いていた期間が長く、その後プロデューサーなどを経験し、初めて監督として仕事をしたのが2018年。
今の気持ちは?
「タレンツ・トーキョーにはいろいろな言語、背景の違う人たちが参加しています。乗り越えてきたチャレンジを聞いたり、乗り越えようとしている壁を一緒に学び、インスピレーションを受けつつ共に戦っていきたい、という気持ちです」
どんな作品を作りたい?
「わたしは人間の外側からは見えないダークサイドを描くことが多いのです。さきほどの紹介映像は親子の悲しい関係を描きました。過去に受けたトラウマが大人になってどのように作用するのか、などを表現したサイコロジカルホラーです。今後もこういった人のダークな面を見せる作品を作りたいです」
課題は?
「日本人プロデューサーを探すことが一番のチャレンジです」
参加した感想は?
「みんな壁に当たっているんだと感じます。悩んでいることが一緒だなと思い、勇気づけられます」
海外からの二人に聞く
サイ・ナー・カムさんはミャンマー出身。クーデターの混乱が今も続くミャンマーの監督はどのような気持ちでこのイベントに参加したのか、興味がありました。
「化学系の大学を卒業し、映画を作ることなど考えてもみませんでした。学問を活かす機会がなく、たまたま叔父さんに映像編集の仕事を紹介され、映画にはまってしまったのです」
言葉では表現できないものを表したい、と語るサイ・ナー・カムさんの紹介映像は、まさに幻想的。
「ミャンマーの情勢は不安定です。今後も検閲や撮影妨害などの問題も出てくると思います。国のいたるところで軍隊と反対勢力との闘いもあります。それらをかいくぐって撮影をしなくてはなりません。自分のような自主製作映画は資金面も厳しいです。以前は支援してくれたNGO団体が無くなってしまったり、商業映画さえ国民は見なくなっています。映画監督の地位も下がってしまいました」
サイ・ナー・カムさんのような監督は国外で短編映画などを作り収入を得るようにしているそうです。
「このような厳しい状態にはいますが、立ち止まらないようにしています」
自分の企画を実現させたい、国の状況を世界に伝えたいとの思いがあります。
「タレンツ・トーキョーでは企画などについて話すことができるメンター(相談者・助言者)を見つけたいと思っています。それが資金集めにもつながることを期待しています」
どんな作品を作りたい?
「トラウマを抱えている人が癒されていくような、そんな映画をいつか作りたいです」
ベトナムから参加したグエン・ホアン・ディエプさんは「アジアのプロデューサーにつながりたい」との願いがあり参加しました。
東京は初めて。映画の中でしか見たことのない「東京」は混んでいる、というイメージでした。
「でも実際に見た東京は、季節もいいし天気も良くて想像と違いました。いま新橋駅の近くのホテルに泊まっていますが、新橋は駅前に日本の昔の汽車が展示されています。わたしはベトナムの電車や駅保存について関わっているので、なんだか縁を感じました」
今後どのような撮影をしたい?
「大きな機材、派手なライティング、大人数のクルーを使わないスタイルで撮影したいと思います。もっと自由にもっとフレキシブルに作りたい。いま作っている作品が冒険に出る人たちの話なので、自分も冒険したいと考えています」
課題は?
「課題は自分自身です。どうやって真摯に物語を伝えるのか、恐れず進めるのか。今も何度も脚本を書き直しています。登場人物のことは頭にすべて入っていますが、撮影が始まると映画を始めて10年経った今でも初心者のような気持ちになるのです。だから課題はやはり『自分』ですね」
タレンツ・トーキョー・アワードは
こうして参加者は6日間、講習を受けたり、各国の仲間たちと話して問題意識を共有したり、また実際に作品を映画関係者にプレゼンしたりと中身の濃い時間を過ごしました。
そして迎えた最終日。プレゼンした作品の中から受賞作が決定しました。
タレンツ・トーキョー・アワードを受賞したのは、なんとインタビューにも応じてくれたサイ・ナー・カム さんの『Mangoes are Tasty There』 でした!
講師からの受賞理由を紹介します。
物語を読んで、聞いて、感じたここ数日間、美しさや、恐怖、希望や悲しみを織り交ぜた詩のような彼の視点から見る故郷の景色に私たちをこの受賞者は連れて行ってくれました。
彼がこの東南アジアらしい物語を語る時、彼の個性や即興性、自信を見ることができ、私たちは、また少し彼の物語を知り、彼の物語を好きになります。この才能を発見できたことが喜ばしく、完成するのが楽しみな作品です。
サイ・ナー・カム さん、おめでとうございます~。映画の世界は一見華やかですが、参加者の話を聞いていると、実は資金繰りや良いプロデューサーとつながることが難しく、みなさん苦労しているようでした。このタレンツ・トーキョーをきっかけに、いろいろな出会いやつながりが得られるといいですね。今後もここから新しいタレンツが生まれることを期待しています。